無線職人のつぶやき
2024/08/23
デジタル無線における誤り検出と訂正
2024年11月30日をもって、400MHz帯と350MHz帯のアナログ無線機の使用が禁止されます。
長らくタクシー等で使われてきたアナログ無線機もデジタル無線機やIP無線機又は他の通信手段へ完全移行する事になります。
このように当たり前となったデジタル無線ですが、デジタル変復調という主要技術の他にも忘れてはならない技術があります。
デジタル無線におけるノイズの入らないクリアな音声はどのように伝送されるのでしょうか?
デジタル無線には、通信を成り立たせるために色々な手法を使っており、その中に「誤り訂正」というキーワードがあります。
偶数パリティ又は奇数パリティという言葉をご存じでしょうか?
偶数パリティは、データの1,0の並びに対して1ビットのパリティビットを追加してデータの並びのうち1の数を偶数になるようにパリティビットを変化させます。
1.0.1.1.0.0.1.1 → 1.0.1.1.0.0.1.1.1 1.0.0.0.1.0.1.1 → 1.0.0.0.1.0.1.1.0
この1ビット追加したデータを送り、受けとった側でチェックした時、偶数になっていなければデータは誤っていると判断できます。
しかし、この方式では、1ビットの誤りは検出できてもどこが間違っているかがわからない為訂正はできません。
誤りを検出、訂正するためにデータの後ろに追加するデータ列を検査ビットと言います。
この検査ビットも無線通信路上で誤ってしまう可能性があるため、誤り訂正は理論無くして行うことはできません。
次の文字列を見て下さい。
12 35 ** 52 175
a b c d e
これらの値を順番にa、b、c、d、eとした時、a+b+c+d = eになる約束がある場合、誤りにて分からなくなった**のc値は、簡単に訂正することができます。
12+35+**+52 = 175 ならば、** = 175-(12+35+52) = 76・・・cの値
もし、cが74と受信したらどうでしょう?
a~eのどれが間違っているかわかりません。eの合計を追加するだけでは検出も訂正もできません。
このように、文字列のどれが誤っているかを検出するためのしくみとその訂正のしくみ(アルゴリズム)が必要です。
通信に於いて、何らかの手段を用いて、誤りを検出訂正し、元のデータに復元しなければ通信は成り立ちません。この何らかの手段は、情報理論や数学、計算機科学等に基づく「符号理論」という学問を利用して、誤り訂正技術として発展してきました。
無線通信には、機器自身の熱雑音ノイズの他に無線機搭載環境のノイズ(車のイグニッションノイズ等)、ビルとビルによる反射や遅延(マルチパス)の影響、通信自体が途切れる(大型トラックが横切った、トンネルの中を通過)など無線通信特有の問題が起こります。
このような場面で誤りが発生するのですが、誤りがランダムに発生するランダム誤りと連続的に発生するバースト誤りになります。誤り訂正技術にもこの2つの誤りに対する耐性があり、固定通信か移動通信かなどの通信形態、通信の再送ができるのかなどの時間的なシステム要件、通信の重要度等々により、発生する誤りの誤り訂正の方法やリカバリー手段を検討できます。
また、誤り訂正をビットレベル又はバイトレベルで行うしくみ、ビットの並びを変えて送る事でバースト誤りを回避するしくみ(インターリブという)、誤り訂正できるならデータ列のビット数を減らして送る量を減らす手法(パンクチャドという)等を盛り込んだりできます。
弊社が作ってきた無線機などの通信機器にも誤り訂正技術を盛り込んでいます。
ハーゲルバーガー符号、BCH符号、ハミング符号、畳み込み符号とビタビ復号、リードソロモン符号等をマイコンやDSP(デジタルシグナルプロセッサ)、FPGA(Field Programmable Gate Array)にファームウェアやハードウェア記述言語(VHDL、Verilog-HDL)で組み込み、通信を行わせています。
当時はマイコンも4bit/8bitマイコンと貧弱で、RAMやROMも64kByte以下の少容量だったため、どのようにしてこれらの誤り訂正を実現するかを必死で検討した時代もありました。
通信の都度、計算で誤り訂正のアンサーを求めるには時系列的に無理があり、テーブルを作って訂正アルゴリズム計算を早くしたり、計算結果をROMに展開してパラメータで値を導いたりして実現しました。
理論的に何ビットまでの誤りは訂正できるとわかっているので、データに疑似的に誤りを追加して送信し、これを復調できた時は、誤り訂正のすばらしさを実感したものです。
現在の携帯電話には、プロセッサの性能が格段にあがったため、誤り訂正技術もシャノンの定理※の限界に近い訂正率を示す低密度パリティ検査(LDPC)符号やターボ符号などが標準化されています。
私たちが日頃使用している携帯電話、街中や会社のWifi環境、ナビゲーションシステムで使用するGPS環境、デジタルテレビ放送などデジタル通信機器のすべてに誤り訂正の技術が使用されています。
デジタル通信を進化させたもうひとつの主要技術、誤り訂正技術は今日も活躍してくれていると思います。
※シャノンの通信路符号化定理(シャノンの定理)―ウィキペディアより抜粋
情報理論において、シャノンの通信路符号化定理(シャノンのつうしんろふごうかていり、
英語: noisy-channel coding theorem)とは、通信路の雑音のレベルがどのように与えられたとしても、その通信路を介して計算上の最大値までほぼエラーのない離散データ(デジタル情報)を送信することが可能であるという定理である。
長らくタクシー等で使われてきたアナログ無線機もデジタル無線機やIP無線機又は他の通信手段へ完全移行する事になります。
このように当たり前となったデジタル無線ですが、デジタル変復調という主要技術の他にも忘れてはならない技術があります。
デジタル無線におけるノイズの入らないクリアな音声はどのように伝送されるのでしょうか?
デジタル無線には、通信を成り立たせるために色々な手法を使っており、その中に「誤り訂正」というキーワードがあります。
偶数パリティ又は奇数パリティという言葉をご存じでしょうか?
偶数パリティは、データの1,0の並びに対して1ビットのパリティビットを追加してデータの並びのうち1の数を偶数になるようにパリティビットを変化させます。
1.0.1.1.0.0.1.1 → 1.0.1.1.0.0.1.1.1 1.0.0.0.1.0.1.1 → 1.0.0.0.1.0.1.1.0
この1ビット追加したデータを送り、受けとった側でチェックした時、偶数になっていなければデータは誤っていると判断できます。
しかし、この方式では、1ビットの誤りは検出できてもどこが間違っているかがわからない為訂正はできません。
誤りを検出、訂正するためにデータの後ろに追加するデータ列を検査ビットと言います。
この検査ビットも無線通信路上で誤ってしまう可能性があるため、誤り訂正は理論無くして行うことはできません。
次の文字列を見て下さい。
12 35 ** 52 175
a b c d e
これらの値を順番にa、b、c、d、eとした時、a+b+c+d = eになる約束がある場合、誤りにて分からなくなった**のc値は、簡単に訂正することができます。
12+35+**+52 = 175 ならば、** = 175-(12+35+52) = 76・・・cの値
もし、cが74と受信したらどうでしょう?
a~eのどれが間違っているかわかりません。eの合計を追加するだけでは検出も訂正もできません。
このように、文字列のどれが誤っているかを検出するためのしくみとその訂正のしくみ(アルゴリズム)が必要です。
通信に於いて、何らかの手段を用いて、誤りを検出訂正し、元のデータに復元しなければ通信は成り立ちません。この何らかの手段は、情報理論や数学、計算機科学等に基づく「符号理論」という学問を利用して、誤り訂正技術として発展してきました。
無線通信には、機器自身の熱雑音ノイズの他に無線機搭載環境のノイズ(車のイグニッションノイズ等)、ビルとビルによる反射や遅延(マルチパス)の影響、通信自体が途切れる(大型トラックが横切った、トンネルの中を通過)など無線通信特有の問題が起こります。
このような場面で誤りが発生するのですが、誤りがランダムに発生するランダム誤りと連続的に発生するバースト誤りになります。誤り訂正技術にもこの2つの誤りに対する耐性があり、固定通信か移動通信かなどの通信形態、通信の再送ができるのかなどの時間的なシステム要件、通信の重要度等々により、発生する誤りの誤り訂正の方法やリカバリー手段を検討できます。
また、誤り訂正をビットレベル又はバイトレベルで行うしくみ、ビットの並びを変えて送る事でバースト誤りを回避するしくみ(インターリブという)、誤り訂正できるならデータ列のビット数を減らして送る量を減らす手法(パンクチャドという)等を盛り込んだりできます。
弊社が作ってきた無線機などの通信機器にも誤り訂正技術を盛り込んでいます。
ハーゲルバーガー符号、BCH符号、ハミング符号、畳み込み符号とビタビ復号、リードソロモン符号等をマイコンやDSP(デジタルシグナルプロセッサ)、FPGA(Field Programmable Gate Array)にファームウェアやハードウェア記述言語(VHDL、Verilog-HDL)で組み込み、通信を行わせています。
当時はマイコンも4bit/8bitマイコンと貧弱で、RAMやROMも64kByte以下の少容量だったため、どのようにしてこれらの誤り訂正を実現するかを必死で検討した時代もありました。
通信の都度、計算で誤り訂正のアンサーを求めるには時系列的に無理があり、テーブルを作って訂正アルゴリズム計算を早くしたり、計算結果をROMに展開してパラメータで値を導いたりして実現しました。
理論的に何ビットまでの誤りは訂正できるとわかっているので、データに疑似的に誤りを追加して送信し、これを復調できた時は、誤り訂正のすばらしさを実感したものです。
現在の携帯電話には、プロセッサの性能が格段にあがったため、誤り訂正技術もシャノンの定理※の限界に近い訂正率を示す低密度パリティ検査(LDPC)符号やターボ符号などが標準化されています。
私たちが日頃使用している携帯電話、街中や会社のWifi環境、ナビゲーションシステムで使用するGPS環境、デジタルテレビ放送などデジタル通信機器のすべてに誤り訂正の技術が使用されています。
デジタル通信を進化させたもうひとつの主要技術、誤り訂正技術は今日も活躍してくれていると思います。
※シャノンの通信路符号化定理(シャノンの定理)―ウィキペディアより抜粋
情報理論において、シャノンの通信路符号化定理(シャノンのつうしんろふごうかていり、
英語: noisy-channel coding theorem)とは、通信路の雑音のレベルがどのように与えられたとしても、その通信路を介して計算上の最大値までほぼエラーのない離散データ(デジタル情報)を送信することが可能であるという定理である。
- 杉本雅範(すぎもとまさのり)
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高校2年生の時に趣味の一つとしてアマチュア無線免許を取得。学校のクラブでの活動の他、地域にも無線クラブをつくって遊んでいた。無線機を制御するファームウェアの開発が専門で、九州テン入社後は、効率的な無線通信を行えるよう、ファームウェア開発に従事してきた。開発歴は約40年に及ぶ。
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