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無線職人のつぶやき

初級編

2020/03/13

アンテナのはなし

無線コラムアイキャッチ

無線と有線
機器と機器の間で情報をやりとりするためには、機器間で情報を伝える何らかの手段が必要となります。
情報をやり取りする手段として、大きくは“無線”、“有線”の2つの方法があります。
“有線”では、言葉の通り情報は“線”で情報をやり取りします。このため、機器と機器は”線”でつながっています。“線”でつながっているため自由度は損なわれますが、情報は電気信号で伝送できます。
そもそも機器内の半導体は、線を使って、電気信号で情報を伝達していますので、外部と情報をやり取りするときも、同じように電気信号で出せば良い訳です。(長距離を送りたい、高速で送りたい等で、いろいろな対処は必要ですが・・・)
無線では“線”はありません。機器と機器の間は電波でやり取りします。送り側では電気信号を電波に変換して送り出し、受け側では電波を電気信号に変換する必要があります。電気信号から電波への変換する部分が“アンテナ”となります。


アンテナとは
さて、アンテナとは?どのような物だと思いますか?
単純に言うと、電気信号を電波に変換するために、電気信号が動くための“導体部分”があるだけです。
導体内を電気信号が動くと、電波が出てきます。 ??あれ? 有線でも線を経由して電気信号を通しましたよね。そこからは、電波は出てこないのでしょうか?何が違うのでしょう?
有線部分からも電波は出ます。ただし効率が非常に悪いです(わずかしか出ません)。


アンテナの効率と大きさ
アンテナから電波を”効率良く“出すためには、電波の波長とアンテナの大きさとの関係が重要となります。
電波の波長とは?電波の中には”波”が入っていますね。電波は“波”です。”波“ですから波の長さ=波長があります。
電波の波長は、「光の速度÷電波の周波数」で計算されます。電波の周波数をMHz単位とし、波長をm単位とすると、波長は300/MHzで計算されます。周波数300MHzでは波長は1mです。
アンテナの基本は1/2波長のダイポールアンテナです。アンテナの大きさが1/2波長の時に一番効率よく電波が出てきます。携帯電話の周波数は800MHz,900MHz,1500MHz等が使われていますので
1/2波長のアンテナの大きさはそれぞれ18.7cm、16.6cm、10cm程度となります。
携帯電話の中にもアンテナは入っていますが、携帯電話そのものがこんなに大きくはないですね。実際にはいろいろな方法を駆使して、アンテナの大きさを小さくしています。おおざっぱにアンテナの大きさと波長の関係は・・・

  • アンテナの大きさが波長の1/2(1/2波長のダイポールアンテナ)
    一番良く電波が出ます。理想です。
  • アンテナの大きさが波長の1/10程度まで
    いろいろな手法を駆使すると、この程度までは小さくできます。
  • アンテナの大きさが波長よりもっと小さい時
    電波を出す効率が低下します。(電波が出ないわけではありません)
  • アンテナの大きさがもっと大きな時
    いろいろな向きに電波が出ます。上手に設計しないと、電波の打ち消しが生じて、指向性がおかしくなります。設計が難しいですが、上手に作ると、効率が上昇し、指向性を狭くできます。
  • パラボラアンテナ
    電波を出すところは1/2波長等の理想のアンテナですが、お椀部分の金属で電波を反射させ、一点に集中させることにより、指向性を鋭くします。



街中で一番よく見るアンテナは?
街中で一番よく見るアンテナはテレビのアンテナです。
地上波デジタルテレビの周波数はUHF帯と呼ばれる470MHzから770MHzです。
少し前までのアナログテレビの時代にはVHF帯と呼ばれる90MHzから220MHzの周波数も使われていました。VHF帯のアンテナはUHF帯と比較して、周波数が低いために、波長が長くなる=大きさがおおきくなります。少し前までは、テレビ用として大きなアンテナと小さなアンテナの2本が、屋根の上に見ることがありましたが、VHF帯のアナログテレビは、2013年でなくなったため、大きなテレビのアンテナは見なくなってしまいましたね。
アンテナを小さくするためには?
携帯電話の周波数は800MHzから上を使用しています。1/2波長で18.7cmもあります。このままでは携帯電話の中に入りませんね。昔の携帯電話ではアンテナを引き出して、全体を長くするような機種もありましたが、現在はそのような機種はありません。どうしているのでしょう?

  • 1/2波長アンテナの半分の1/4波長アンテナは、アンテナの下側にGNDがある場合、グランド部に鏡像ができ、鏡像と合わせて1/2波長となるため半分の長さで済みます。
  • 誘電体内では、電波の速度が遅くなります。そのため波長も短くなります。アンテナを誘電体の中に作ることにより、波長が短くなることで、小さくすることができます。
  • アンテナを折り畳んで長さを稼ぐことも効果があります。ただ、小さく折り畳みすぎると、折りたたんだ部分の相互の干渉により、折り畳んだ効果が減るために、限度がありますが。

 最近の携帯電話には携帯の電波だけではなく、無線LAN、Bluetooth、地上波ディジタルテレビ等の各種のアンテナが入っています。また、最近の携帯電話は”デザイン“が優先されるために、アンテナを設置できる場所が減ってきています。小さな筐体の中にデザインを優先させた状態で(デザインを優先すると、必然的にアンテナを格納できる場所が少なくなります。)、どのように多数のアンテナを収納するか?悩ましいところです。


その他:予期せぬアンテナと電磁波妨害
最近のパソコン等はクロック周波数が高くなっています。最大は4~5GHz(4000~5000MHz)程度です。無線LANの周波数も2.4GHz、5GHzの機器があります。
導体内を電気信号が動くと、電波が出てくると言いましたが、5000MHzでは1/2波長は3cmです。
わずかな配線の長さで“予期せぬアンテナ”が出来てしまうことがあります。アンテナは“物理現象”なので、えり好みはしません。アンテナとして作成した場所であれ、予期せぬアンテナとなった場所であれ、波長が合うと”効率良く“電波が出て行って、他の機器へ”電磁波妨害“を与えることがあります。電磁波妨害を予防する観点からすると、予期せぬアンテナをどうやって”作らないか“も考える必要があります。

 
岩本清(いわもときよし)
この記事を書いた人の顔写真

小学6年の時アマチュア無線の資格を取得した。関東の部品メーカーでTVチューナーの開発を手掛けていたが、地元で仕事がしたいと思い九州テンに入社。以来、防災無線などの社会インフラ系の機器の設計業務に従事し、無線のスペシャリストとして後進の育成にも力を注いだ。2022年7月に定年退職。
(2019年3月から2021年9月まで執筆頂きました。ありがとうございました。)

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